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心の万華鏡 ⭐️⭐️

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2018年 12月 24日

題名はまだない(鶴橋鮮魚市場)





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慌ただしく 人が行き交う

鮮度のいい魚が 箱に入れられて市場の中を引かれていく

昭一はそんな光景を目の隅にしながら 今日も空いた椅子の上に腰を下ろした

タコ 鯖 アジ マグロ 牡蠣 ヒラメ。。。。サヨリに鯛 この市場には何でもある

刺身の他に何にするか

煮付けか 焼き物か それとも。。。。。



暖簾を出してカウンターの中に立つ昭一

もう何十年も店をしているけれど 開店して 今夜一番の客が入るまではいつも緊張する

暖簾を跳ね上げて客が入る ぃらっしゃい!!この流れで昭一の緊張はほぐれていくのだ

季節の挨拶をしながら 客の注文を聞く

やがて 店は仕事帰りのお客でいっぱいになってくる

寡黙な昭一は 注文をさばきながら奥の妻に合図をする

お冷を出せとか おしぼりを変えろとか 小皿を取り替えてとか あのお客は熱い茶がいいとか

妻は店の奥で 洗い物や 小鍋の火加減 雑事一切を黙々とこなしている 

時々 低い声で昭一にぶつぶつ言う

もちろん客にはこういうことは一切解らない

店の奥にいる白いエプロンをつけたおかみさんが ニコニコしながら 色々世話を焼いてくれるのを 気が効くなあと思うだけだ


昭一の店は 十人くらいが座れるカウンターと 四人掛けのテーブルが一つあるこじんまりとした設えである

カウンターは大概客で埋まるが テーブル席は時々は客の荷物置き場となったりする 

身の丈にあった暮らしをしていけたらいいと思っている

寡黙な店主だが腕はいいと評判で そこそこ繁盛している



父親は市場勤めだったが それをやめて この市場の近くに小さな店を出したのだ

昭一は 大学を出て 商社に勤めたが 本業より市場の中にいる方が好きだった

5年勤めた商社をやめて 父親に頭を下げて店を手伝わせてくれと頼んでからもう40年近くが過ぎた

その間に見合いもして 結婚 子供も男の子と女の子を授かったのだ



商売は 大変だが 子供達も順調に育ち しかし 父親の店を継ぐものはなく 今に至っている

それでいいと昭一は思う もうこんな店は流行らんしなあ。。。。

昭一の店の近くにも 大きなファミリーレストランや くるくる回る鮨の店ができた

そうして 客はだんだんと潮が引くように減っていった

大きな会社は 東京へそこからまた海外へという風に仕事の場所も変わった

そこで働く人もどんどん変わっていく時代になった

大阪は緩やかに地盤沈下しているのだ


昭一の店で出すものは 本物だ 市場でその日に仕入れた魚貝だ

大手のレストランは 冷凍したものを大量に仕入れる

皿に乗っているものは 大概が外国産のものばかり

昭一の店は 全てが手作りだ 魚ならウロコを取って捌いて調理する

市内の一等地にある高級店のような値段ではないが

どうしても手の込んだ分だけは 値段に反映してくる

少々値が張ろうと 美味いものを食べたいと思う客は昭一のような小さい店を選ぶだろう

昭一はよく工夫して 常連客に喜ばれた

客の舌が肥えていて 客に育てられる一面もあるのだ

最近 客層が変わったというか 味にこだわりを持たない客が増えた気がする

そんな客は値段に敏感だ 昭一の店より安い大手に流れる

そうして 大手の店の味もそう悪くないと思うようになる

いや実際 一度ならず食べてみて 全く話にならない味ではないと昭一も思ったのだ

回転鮨しかり ファミレスしかり

しかし 微妙に違う 深みも違う 

その辺の加減が職人技なのだが 客はそこまで期待しない

材料も決定的に違う

しかしだ 安くてそこそこ旨い それ以上に何を求める?これでいいじゃないか


店も変わったが客も変わったのだ

客と店主のつながりなど 最近は求められていない

黙って座って アルバイトの子が出すメニューをパラっとめくる 

黙って指差すとそれで終わり 

あとは食って店を出るだけ

殺風景な世の中になったもんだ 昭一はつくづく思うのだ



もう店はこの頃は開店休業のような日もある

女房は 疲れた顔をしてため息をついている

苦労ばかりかけた妻に申し訳ないと思うが 昭一自身も途方に暮れたような気持ちなのだ

どうしようか これから

毎晩夫婦で店を閉めるか どうするか話し合いをするが 埒があかない

幸い 貯金も少ないが 代わりに借金もない

小さな店だが 土地から自分のものなので 売りたいと思えば何とかなるだろう

大金は入ってこないし 夫婦で遊んでとはいかないが パート勤めでも探して倹しくやれば暮らしてはいけるだろう

女房はそうして欲しいと思っているだろうが 昭一にはまだ踏ん切りがつかないのだ

最近は 会話もない  押し黙ったままの女房の存在が鬱陶しさを増している

だから毎朝黙って家を出て 仕入れるあてもないのに こうして市場で座っているのだ

市場の人たちは皆 昭一の境遇を知っている

だから 黙って何も言わない

昭一は その沈黙がありがたいと思う

今なら 店を閉めてもやっていける

なんなら 市場で仕事を探してもいいのだ

昭一さんならうちへ来てくれてもいいぜと言ってくれる卸売の店が 何軒かある

昭一は 決めかねている 自分でも情けないと思うが 店に愛着があるのだ

暖簾にも 自慢のカウンターにも愛着がある 

磨き込まれて手にすっと馴染む包丁は 宝物だと思う

いや 正直女房より大事だと思うことさえあるのだ 

これは口が裂けても言えないが。。。。



昭一は知っている 自分はそれらを捨てざるをえないことを

なのに 店の全てが愛おしいのだ 捨てるのが嫌なのだ

堂々巡りで今日も終わるのか。。。。。


ため息をついた時 電話が鳴った

お父さん?急いで決めんでもええんよ。。。。。。電話はそれで切れた

優しい声だった ずっと昔に聞いたあいつの優しい声

その声で昭一の心は決まった

椅子から立ち上がった昭一は 心配そうに見る卸売の店の店主に片手を上げた

これから市場の事務所に行こう 職の当てを探すのだ

市場の色が変わったように昭一には見えた

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PS   全てフィクションです 




by hanarenge2 | 2018-12-24 22:39 | ネット関係 | Comments(8)
Commented by cfc999 at 2018-12-24 23:36
れんげそうさん、こんばんは。^^
 これだけの長文の物語がフィクションとは
 ノンフィクションとばかり思って読んでいましたが・・・
 もしかして作家志望なのですか?
 そうで無くともとてもうらやましいです。

 私のコメントを読んでもうお分かりかも知れませんが
 作文が下手なので恥ずかしいので余りコメントをしたくない方です。(汗

いつもイイネをありがとうございます^^;
Commented by hanarenge2 at 2018-12-25 00:01
> cfc999さん
お読みいただいて ありがとうございます
ショート ショートでございます^^
ノンフィクションと思われました?
これは 私の妄想です 笑
作文とか 詩とか童話のカテゴリです
作家!!とんでもございません
遊びだから筆が走るのですよ
ただ文章を書くことは読むこととと同じくらい好きでした 子供時代から。

いえいえ お写真から雄弁に伝わってきます
私も文章と同じくらい 写真を撮れるようになりたいです
Commented by sikisai04 at 2018-12-25 03:35
個人商店で買い物をしていた頃は近くて楽でしたが今は遠くのスーパーへ車で行くようになり、
同じように近くの飲食店は規模の大きなファミレスや回転寿司へと移り変わりましたね。
どれだけでも安い物を狙っての行動なのでこれも時代の流れですが何処と無く人情が感じられなくなりました。
お店の人との雑談も期待したいが先ずは安く上げると言うことなのでしょう。

最近ネットなどで吉田類の酒場放浪記や孤独のグルメなどの動画を良く観ますが、
そこには繁盛している店内が映し出されています。
でもそれも「テレビカメラが入るから」と言う特別な日だからかも知れませんね。

今回も楽しく読ませて頂きました。
それにして文章の綴りが上手いです。
Commented by noboru-xp at 2018-12-25 10:32
いや~素晴らしいですね。
物語に引き込まれていきました。
>お父さん?急いで決めんでもええんよ。。。。。。電話はそれで切れた
この電話で昭一は、やれるとこまでやろうかと...って思ったのですが
浅はかでした(*_*;
これで、私の感性もしれていますね。
添えられた写真も適切で、うまさとセンスをマザマザと感じました。
次も楽しみにしております(^^)v

Commented by 高兄 at 2018-12-25 14:09 x
れんげそう様、こんにちは

メリークリスマスでございます^^

渋い、モノクロ写真ですね

思わず、海鮮丼が食べたくなります^^;
Commented by hanarenge2 at 2018-12-25 23:14
yoasさん
スーパーは一度に何でも揃いますからね
楽だしやっぱり安いし。。。
でもデパートの対面販売が好調なように 話しながら買うというのは何処かしら 安心感というか 楽しさが増えるのかもしれませんね

個人のお店でも頑張っているところも多いですよね
この記事を書いてアップの前にニューズウィーク日本版を読んだのですが
個人のお寿司屋さんの話が載っていて びっくりしました
この方はリアルですから頑張って欲しいと思いました
Commented by hanarenge2 at 2018-12-25 23:18
no our-xpさん
ありがとうございます
駄文に引き込まれてくださって 笑
昭一が お店を続ける。。。
そういう解釈もありますね(^^)
写真はちょっと狙いすぎというかあざとかったかもしれないと思っていたので
ありがとうございます
またどうぞ宜しくお願いします
Commented by hanarenge2 at 2018-12-25 23:20
高兄さん
ほんま メリークリスマスですね
渋い写真ですか?モノクロって私の写真でも何とかなるんです 笑

海鮮丼 私に食べたい (^◇^)
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